昆虫

モルフォチョウと色褪せない色素

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皆さんモルフォチョウ(モルフォ蝶)をご存じでしょうか?
モルフォチョウ属(Morpho)は主に中南米に生息する蝶のグループです。
鮮やかなサファイア色の翅を持ち、その美しさから「森の宝石」などと呼ばれます。
そのようなモルフォチョウの特徴的な「青色」には、自然が創り出した特殊な技術が使われています。

モルフォチョウは他の一般的な蝶と何が異なるのでしょうか。
一般的な蝶では、翅自体は透明~半透明で、色のついた鱗粉に覆われることで様々な色や模様を作り出しています。
対して、モルフォチョウの鱗粉はほぼ透明で色がないことがわかっています。
では、なぜモルフォチョウは鮮やかな青色に見えるのでしょうか。
それは「特殊な鱗粉の形状」によって青色の光のみを選択的に強める、「構造色」で発色しているためです。

構造色とは、薄膜や微細な構造パターンによって、ある特定の波長の光 = 色が強められることで色が出る仕組みです。
CDの記録面やシャボン玉のように様々な色に変化して見えるのも構造色によるものです。
一方、一般的な色素は特定の波長(色)を吸収するため、私たちには色づいて見えます。

CDでは記録面の構造が、シャボン玉はセッケン膜の厚さが構造色の機構に影響しています。
ですが、CDの記録面やシャボン玉膜の厚さは精密に制御されていないため、様々な色に変化して見えます。
モルフォチョウの鱗粉は青色の光を選択的に強め、他の色は弱めるように、その形状が精密かつ精巧に設計されています。

モルフォチョウの鱗粉を電子顕微鏡でマイクロメートルレベル(1マイクロメートル = 1ミリメートルの1,000分の1)まで拡大して観察すると、筋状の構造が確認できます。
その筋状構造の断面は、突起に対し棚のように枝が分かれています。
この構造こそが、モルフォチョウの翅の色の秘密です。

モルフォチョウの鱗粉にある棚状構造は約200 nm (0.2×10?? mm)間隔で均等に並んでいます。
鱗粉に光が当たり反射する際には、それぞれの棚部分で反射された光は、入射時と反射時でそれぞれ200 nmのずれが生じるため、計400 nmずれることになります。
そうすると、棚の数だけ400 nmずつずれた光が並び、強め合うことになります。
この「400 nmの強まった光」が私たちには「青色」に見えるわけです。

モルフォチョウの鱗粉は、色素による発色を必要としない素材としてのヒントとなります。
そもそも色素が色づいて見えるのは、色素自体が不要な色を含む光を吸収するためです。
吸収した光はエネルギーとなり、色素自体を破壊することになります。
街中の看板やポスターなどが色褪せてしまっているのはこのためです。
しかし、モルフォチョウの鱗粉を参考にした色素であれば、そのミクロ構造が大きく壊れない限り、退色することはありません。

実際にモルフォチョウの鱗粉構造を参考にして「モルフォトーン??」という塗料や、「モルフォテクス??」(どちらも帝人ファイバー株式会社、日産自動車株式会社、田中貴金属工業株式会社)という合成繊維が作製されています。
構造色による澄んだ色味や見る角度による色相の変化、高級感のある光沢を特徴としています。

現在は服飾分野や車の塗装、化粧品などの一部分野で使用されていますが、もっと色調や光沢感を制御する技術が発展することで、永遠に色褪せない夢の色素ができるかもしれませんね。

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